リュウは、かたかたと音を立てて器を片付ける。
 その眼差しは暗く、ひどく意気消沈している様子が伝わってきた。
「……」
 ボッシュはそれを見るともなしに見て、眉を寄せる。
 小さな器は、あの、小さなディクのもの。
 ―――あの、ちっぽけなディクのもの。

 ……カァーンッ…!

「あっ」
 リュウが目を見開いて声を上げる。
 ボッシュが、何も言わずに器を蹴飛ばしたのだ。
 小さなアルミの器は、部屋の隅まで呆気なく飛んでいき、カラカラと転がる。  
「何するんだよ、ボッシュ!」
 リュウが思わず眉をつり上げて詰め寄ると、ボッシュは苦笑交じりに肩をすくめた。
「悪い悪い、つい、さ」
「…つい、で、ボッシュはこんなことするの…?」
 リュウのつり上げられた眉は戻らない。
 あのちっぽけなディクを侮辱した、ボッシュを非難するように戻らない。
「……」
 ディクのために怒るローディー。
 ボッシュはそれを無表情で見つめ、パンと乾いた音を立てて手を閃かせた。
「ッつ…」
 ……リュウは困惑した様子で、赤くなった片頬を押さえている。
「お前、それでもレンジャー? 」 
 ボッシュはそう、冷ややかに言い捨てて、寝台にころがる。
 リュウはその言葉を呆然とした様子で聞き、すうっとうなだれた。
「……ごめん」
 そして、意味を成さない呟きを口にして、アルミの器を拾うために足を動かす。
 ボッシュはそちらを見ようとすらしない。
 ……リュウは思わず失笑めいた笑みを浮かべた。
 自分への、失笑。
「…ボッシュ」
 既に返事をしない彼に向けて呟けば、案の定答えはない。それに安心するように、リュウは器にそっと指先で触れた。 
「……ボッシュ」
 かつん、と爪の先がアルミに触れて音を立てる。
 この器は、後できちんと処分しに行こう。ただでさえ汚い部屋なのだから、せめてこれ以上汚さないように。
「……。……ボッシュ」
 浮かんだ笑みが、小さく歪んだ。
 誰にもいえない名前。彼になど、到底告げられる筈もない名前。
 それをひっそりと呟き、リュウは静かに彼を悼んで名前を呼んだ。

「ボッシュ…」

 ちっぽけな生き物も、剣聖につらなるレンジャーも。
 彼の悼むような呼びかけに、応えを返すことはなかった。








ホントに蛇の足かなあ、と思ったですが……。

とりあえず、あの仔ディクの名前が分からなくてスッキリしない方がいらっしゃるかもと思って。(←余計なお世話!)
…これでも分からなかったらどうしよう…!(不安)
いやもう、そんときは風成に聞いてください!!(そこまでして知りたくないだろ…)

ではでは、蛇足にて失礼しました…;